MOZ変異型白血病の発症メカニズムを解明
多様な白血病に対する新規薬剤の有効性をマウスモデルで証明
2020年9月30日
国立研究開発法人国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点
公益財団法人 庄内地域産業振興センター
研究成果のポイント
l MOZ遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明した。
l MOZ変異体タンパク質はMLL複合体を介してがん関連遺伝子の転写を活性化する事を証明した。
l 現在世界中で開発されつつあるMLL複合体阻害剤がMOZ変異型白血病にも抗腫瘍効果を持つ事をマウスモデルにて検証した。
公益財団法人庄内地域産業振興センター(理事長:皆川治、鶴岡市末広町)/国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の横山明彦チームリーダーの研究グループは、悪性度が高いMLL及びMOZ変異型急性白血病が、共通のメカニズムを介してがんを引き起こしている事を解明し、MOZ変異型白血病において、MLL変異型白血病の治療薬として開発中のMLL複合体阻害剤が高い抗腫瘍効果が期待できることを実験的に証明しました。
本研究は、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点と、広島大学、東京大学、熊本大学、国立がん研究センター研究所の共同研究であり、2020年9月29日(日本時間9月30日)に米国の科学雑誌「Cell Reports」に掲載されました。
急性白血病は、MLLやMOZなどの遺伝子発現を調節するタンパク質が、遺伝子変異の結果、異常に強く働く事で、血液細胞の無制限な増殖を誘発し発症します。MLL遺伝子に変異を持つ白血病は骨髄性とリンパ性両方の急性白血病の5〜10%で見られる一方でMOZ遺伝子に変異を持つ白血病は急性骨髄性白血病で見られます。MLL変異を持つタイプの白血病の生存率は約40%と極めて低く、新しい治療法の開発が強く望まれており、現在、MLL変異体の働きを妨げる薬剤として、MLLタンパク質が共作用因子と結合する事を妨げる分子標的薬(MLL複合体形成阻害剤)の開発が世界中で進められています。MOZ変異型白血病においては正常MLLが発現していますが、MOZ変異体はMLLに依存して遺伝子の発現を活性化するため、MLL複合体阻害剤が抗腫瘍効果を示すことが、今回新たに明らかにされました。この結果は、様々な「正常MLLを発現するがん」に対してMLL複合体阻害剤が著効する可能性がある事を示唆しており、今後MLL複合体阻害剤が適応可能な腫瘍性疾患が多数見出されることが期待されます。
【研究手法と成果】
MOZ遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明
遺伝子の発現は多くの場合、「転写」と呼ばれるDNAからRNAが作られる反応の強さによって調節されます。白血病においては特に転写を制御するタンパク質に多く変異が見られます。変異によって転写制御因子が異常に活性化する事で、MYCなどの「がんを引き起こす遺伝子(がん遺伝子)」が発現し続けるようになります。その結果、細胞は増殖に適した代謝をし、栄養を活発に取り込みながら無制限に増殖するようになります。
今回、研究チームは、MOZ遺伝子に変異を持つタイプの白血病のがん化のメカニズムを解明するため、MOZタンパク質複合体の構成因子を解析し、白血病化におけるMOZ共作用因子の役割をマウスモデルを用いて明らかにしました。その結果、MOZ変異体タンパク質の一つであるMOZ-TIF2はMLLやRNA Polymerase II (RNAP2)などの転写制御因子と結合する事で、CG配列を多く含む遺伝子発現調節領域に結合する事を見出しました(図1A)。また、MOZ-TIF2はp300/CBPというタンパク質をがん遺伝子上に呼び込む事で、遺伝子の発現を異常に活性化していました。これらの結果は、MOZ-TIF2が白血病を引き起こすためにはMLL複合体が必要である事を示しました。
MOZ白血病細胞にMLL複合体阻害剤が高い抗腫瘍効果を示す事を実験的に証明
先の研究成果を踏まえ、MOZ変異型白血病におけるMLL複合体形成阻害剤の効果についての検討を行いました。これまでに研究チームは、MLL遺伝子変異を持つ急性白血病では、MLL変異体タンパク質がMENINという共作用因子と結合して複合体を形成し、がん遺伝子を異常に活性化することを報告して来ました。MI-2-2という分子標的薬は、MLLとMENINの相互作用を阻害することで、MLL複合体の機能を阻害します。MI-2-2を作用させるとMOZ-TIF2白血病細胞は、MLL変異型白血病細胞と同じように増殖を止め、がん化能を失った無害な細胞に変化しました(図1B,C) 。従ってMOZ変異型白血病に対してMLL複合体阻害剤が抗腫瘍効果を発揮することが明らかになりました。
【今後の展望】
今回、MOZ変異型白血病細胞にMLL複合体形成阻害剤を作用させると、白血病細胞のがん化能が失われる事を明らかにしました。この結果から、正常MLLを発現するがん細胞おいてもMLL複合体形成阻害剤が有用である場合がある事が明らかになり、今後、別のがん種でもこの薬剤が抗腫瘍活性を示すことが明らかになっていくと期待されます。研究チームはこの成果をもとに、製薬企業やAMEDから研究費の支援を得ており、様々ながん種で新たな治療法の開発を目指した研究を展開します。
【発表論文】
雑誌名: Cell Reports
タイトル: Activation of CpG-rich promoters mediated by MLL drives MOZ-rearranged leukemia
著者:横山明彦、宮本亮、奥田博史、金井昭教、高橋慧、川村猛、松井啓隆、北村俊雄、北林一生、稲葉俊哉
【研究費】
がんメタボローム研究推進支援事業費補助金(山形県、鶴岡市)
科学研究費補助金 科学研究費助成事業 基盤B 「MLL白血病発症メカニズムの統一的理解」
日本白血病研究基金
大日本住友製薬:共同研究費
<報道関係からのお問い合せ先>
国立研究開発法人国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点
がんメタボロミクス研究室 チームリーダー 横山明彦
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